読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

NEODEAD MUSIC BLOG

音楽を思考する

Dante’s Inferno レビュー

はじめに

Dante's Infernoはイタリア文学の古典「神曲」をベースにした3Dアクションゲーム。
神曲」は地獄編、煉獄編、天国編の3部作からなるが、本作はタイトルにもあるように地獄編、つまり第一部となる。
原作の地獄編では9つの地獄エリアが描かれており、それぞれがキリスト教罪と罰の教義にフォーカスした内容となっている。
ヨーロッパをはじめ英語圏に属する人々にとっては古来より親しまれてきた名実ともに古典文学の最高峰と言えるだろう。
一方イスラム圏から見れば禁書扱いの本でもあり、脈々と受け継がれる永続的な宗教的対立の構図が背景にあることは間違いない。

開発はDead Spaceを手掛けたEA Redwood Shoresが務め(後にVisceral Gamesへ統合)、パブリッシャーはEAとなる。
Xbox 360版、PS3版ともに定価は7665円。2010年2月18日に発売。CEROレーティングはD。
これについては「極端に残虐な印象を与える人体の死体表現、身体分離、欠損、殺傷表現の削除および倫理上問題のある人体の局部表現の削除」と公式発表されている。


魅力的な舞台設定

まずはじめに、Dante's Infernoにおける最大の魅力とは、この地獄絵図の描写にあると言っても過言ではないだろう。
高画質に再現されたこの血みどろで悪趣味な絵作りは、まるで亡者の体温や臭気さえも伝わってくるような質感である。
私は直感的にClive Barker's Jerichoという過去のFPS作品を思い出してしまったのだが、両者に漂う空気は間違いなく同種のものであった。
よく引き合いに出されるGod of Warと比べてみても、Dante's Infernoの世界観は徹底的に地獄にスポットを当てていた分、コンセプトは明確となっていたと思う。

原作ありきの作品とはいえ、ここまで徹底的に地獄という世界を描いた作品も珍しいのではないだろうか。
加えて西洋文学、つまり西洋人の考える地獄を体験出来るのは極東のアジア圏に住む我々にとっても非常に興味深い作品と言える。
特に日本では古来より仏教と神道が渾然一体となってその死生観を形成してきた経緯もあり、およそキリスト教に代表される欧米の死生観とは今でも無縁の方が多いと思う。
この陰惨で耽美的なDante's Infernoの地獄世界というものは、そういった異文化に対する一定の好奇心を満たす格好の材料、いわば地獄観光作品とも言うべき存在なのかもしれない。


世界観に忠実なキャラクターデザイン

Dante's Infernoに登場するキャラクターは、良い意味でこの地獄的世界観に忠実である。
特に大型キャラクターのデザインはこの上なく悪魔的であり、その演出も十分迫力あるものだった。
これはあくまでも原作ベースのデザインであるからこそ、この世界観と違和感なくマッチングしたと思われる。
もちろん、過去の国産ゲームで何度か出会ったことのあるようなデザインだが、西洋人から産み出されたその造形、出で立ちは興味深いものがあった。

問題は主人公ダンテである。
確かに人間であるダンテに突飛なデザインは似つかわしくないと思うが、あまりにも地味過ぎるのではないだろうか。
十字軍の兵士という設定が開発者にとって足かせとなってしまったのか、これではGod of Warの主人公クレイトスの足元にも及ばない。
もっとインパクトのあるコスチュームや強烈な個性を持ったルックスなど、やろうと思えば出来たことをあえてやっていないのだ。
それを美意識と言えばそれまでだが、本作はゲームという娯楽作品である。
地味なキャラクターを何時間にもわたって操作するのはプレイヤーにとってそれこそ悲劇に近いと思う。


シンプルなゲームシステム

Dante's Infernoは3Dアクションゲームに分類される作品である。
このジャンルの代表的な作品と言えばGod of WarDevil May CryNinja Gaidenなどが挙げられる。
こうした過去の同ジャンルに属する作品から見ても、Dante's Infernoのゲームとしての骨格はシンプルそのものである。
悪く言えば平凡そのものであり、内容について新発見の要素はほとんどなかったのが実情だ。
例えば暴虐と神聖という2種類のレベルアップシステムが存在するものの、武器は鎌のみで防具に至っては強化の概念さえ存在しないという有様。
これは潔さを通り越して開発者の知恵不足、いや怠惰と言うべきか、あえてそこまで言わざるを得ないほどスカスカな内容だ。

また、個人的にはストレスでしかないQTEのシステムを多くの場面で取り入れていたのも印象的だった。
これは画面の指示に従い、タイミング良くボタンを押すことによってプレイヤーが既定のアクションを繰り出すシステムだが、失敗すると著しくテンポを阻害する要因にもなる。
本作は直前リトライが可能なため、失敗してもそれほど精神的ダメージは受けないが、果たして本当に必要なシステムだったかどうかは怪しいものだ。
古くはファミコン時代の飛龍の拳などから脈々と受け継がれている伝統的なシステムではあるものの、もはや使い古された過去の遺物であると私は思う。
特に今回はボタン連打を強要してくるシーンも多く、もう少しスマートに実装出来なかったものかと悔やまれる。


ゲームバランスは並以下

ゲームバランスに関して言えば、Dante's Infernoは平均を下回るであろう。
確かに難易度設定はいつでも変更可能であり、これについてはユーザーフレンドリーとも言えるが、その他においては秀でた部分の方が少ないからだ。
特に本作の評価を大きく下げている要因の1つに落下死の多発がある。
地獄に落ちろとはよく映画などでも耳にする言葉だが、本作はまさしくその名に恥じない作りである。
これはもちろん皮肉だが、とにかく理不尽に落下してゲームオーバーを喫する場面が多い。
高所でのロープからロープへの綱渡りのみならず、血の池や毒沼のような比較的底の浅いと思われる場所でも足を踏み入れた瞬間に死ぬ。
ダンテは人並み外れた身体能力の持ち主で幾多の悪魔と死闘を繰り広げるが、泳ぐのはからきし苦手らしい。このギャップは一体何だ?
それにしても落ちて死んだ回数をカウントする実績があっても良かったぐらい、Dante's Infernoは正真正銘の「落ちゲー」と言えるだろう。

それから意味の分からないミニゲームの存在にはほとほと手を焼いた。
これは前述した暴虐と神聖という2種類のレベルアップのうち、神聖に関わるミニゲームとなるが、ストレスしか発生しない大変奇妙なゲームだった。
具体的には音のない音ゲーと言えばニュアンスが伝わるのかもしれないが、私としてはぜひこの意味不明なミニゲームは多くの人に体験して頂きたいと思う。
開発者がこのミニゲームを搭載した理由は何だったのか、まるでオーパーツの謎に匹敵するぐらいのミステリーである。
このミニゲームのおかげでテンポが阻害され、何度も緊張の糸が切れてしまったのは本当に残念でならない。


使い回しの多いマップデザイン

地獄観光が楽しめる本作は、確かにその世界観が魅力的であるものの、実際のステージマップに関しては使い回しが多かった。
むしろ最初から最後まで同じような景色を眺めながら、同じようなマップで、同じ敵と戦い続けるダンテがとても不憫に思えてきたぐらいだ。
特に終盤では全く同じマップを10回も使い回すという近年まれにみる手抜きステージを体験することになってしまった。
これには私も開いた口が塞がらなかったが、あの名作Dead Spaceを手掛けたデベロッパーとは到底思えない出来だ。
納期の都合上、やむなくステージを端折るケースは他の作品でもたまに見かけるが、ここまで手抜きを感じさせる構成も珍しいだろう。
この点についてVisceral Gamesは大いに反省すべきだと思う。

マップに隠されたギミックにしても少し不親切かなと感じる場面がいくつかあった。
こういった3Dアクションゲームに謎解き要素は定番だが、出来れば直感的に答えが分かるような仕組みであって欲しいと思う。
その点からすればDarksidersのギミックは絶妙な難易度であったし、God of Warにしても数は多かったが楽しくもあった。
Dante's Infernoのステージが単調と感じてしまったのは恐らくこのあたりも少なからず影響しているのかもしれない。


前半に山場を迎えるキャンペーン

終盤の使い回しマップでボリュームを水増ししようとしたのかもしれないが、終わってみれば6時間少々の短いキャンペーンだった。
難易度は易しいものでプレイしたが、それでもこの短さは物足りなさが残る。
ただ、随所における無駄なQTEと理不尽な落下死のおかげで思った以上に長く感じたのも事実である。
直前リトライが可能とはいえ、本作のように死んで覚えるゲームというのは賛否あるところだと思う。

キャンペーンのシナリオについては原作ありきの作品だけに特に不満は感じなかったが、チャプターが進むにつれてテンションが下がっていく展開はとても残念だった。
序盤の演出は相当に力が入っているもので、例えば愛欲者のステージなどはDante's Infernoならではの世界であり、開発者の並々ならぬ決意のようなものを感じたが、その気概が後半まで持続することはなかった。
せっかく前半で盛り上がったところで、後半にそれ以上の山場がなかったのは悲劇的ですらある。
本作は日本語吹替のクオリティも高かったことから、こうしたストーリーラインの貧弱さはもったいないとしか言いようがない。

肝心のボス戦に関しては国産ゲームほどの手応えはなかったものの、一定の評価を与えてもいいと思える内容だった。
トドメをQTEに委ねた設計は本作がGod of Warを目指して作られたことを容易に想像させたが、方向性としては間違っていないと思う。
そもそもプレイヤーの何倍もある大きさのモンスターを裸一貫で倒していくのはゲームが持つ根源的な魅力でもある。
本作でのボスキャラの少なさは否めないところだが、1つ1つの構成はきちんと作られていたように感じた。
だからこそ失速していくキャンペーンの流れが残念でならないのだ。


まとめ

Dante's Infernoは一言で言えばオリジナリティのない凡作アクションゲームである。
過去の3Dアクションゲームから様々なシークエンスを模倣し、そこに「神曲」という古典的叙事詩をちりばめた作品だ。
この典型的な地獄絵図に当初は新鮮味を覚えるが、次第にマンネリ化するステージには嫌気がさしてくることだろう。
デベロッパーにはGod of Warをコピーする技術はあったものの、それを超える革新性を披露することは出来なかったようだ。
せめて印象的な音楽の存在でもあれば多少は誤魔化せたのかもしれないが、残念なことに音楽も平凡極まりないものだった。

しかし、だからと言って極限に酷いゲームというわけでもない。
魔法を重視した戦闘スタイルもコツを掴めばそれはそれで楽しいハック&スラッシュに化けるし、アンロック欲しさのリプレイ要素もある。
演出に至っては前半部分において多くのアクションゲーマーを唸らせる展開であったことは改めて強調しておきたいところだ。
繰り返すが、このテンションが後半まで持続すればもしかすると傑作に近付くことが出来たかもしれない作品なのだ。
それだけ驚異的な演出であったことは重ねて明記しておく。

ただ、後半からは開発者のアイデアのなさとステージの単調さがプレイヤーのモチベーションを削ってしまったのも事実。
ラスボスに関しても迫力はあったがまだまだ改善の余地が残る内容だったのは上でも述べたとおり。
このように前半でアイデアが枯渇してしまったのはデベロッパーの力不足と言われても否定出来ないだろう。
それでもキャンペーンの最後をto be continuedの文字で締め括ったからには次回作でぜひとも挽回して欲しいと思う。


おわりに

Visceral Gamesはこの作品でダンテよりも重い十字架を背負うことになってしまったが、希望が全て途絶えたわけではない。
この神曲という叙事詩に彩られたフォーマットをどのように発展させていくのか、これはもうデベロッパーの腕の見せ所、いわば正念場だ。
個人的には原作以上に天国までの道のりは長いと想像するが、果たしてどうなるものか。
そこは責任持って見届けたいと思う。

総合評価の点数についてはあくまでも参考程度に考慮して頂きたい。
基本的には減点法でチェックをしているが、他のアクションゲームとのバランスも一応念頭に置いた。
題材が良いだけに、次回作ではせめて80点を超えて欲しいと本気で願っているところである。



総合評価:78点





ダンテズ・インフェルノ ~神曲 地獄篇~



xbox360全般ゲーム・攻略ブログ・ランキング