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NEODEAD MUSIC BLOG

音楽を思考する

007 慰めの報酬 レビュー

Game Review

はじめに

007 慰めの報酬(原題:007 Quantum of Solace)はCall Of Dutyシリーズを手掛けるTreyarch社が開発したFPS/TPS作品。
2008年10月31日にヨーロッパで先行発売され、翌月の11月4日には北米でもリリース。日本版は遅れること2009年3月26日に発売された。
プラットフォームはPC、Wii、DS、PS2PS3Xbox 360と、現行ハードをほぼ網羅する形で行われ、これによりパブリッシャーはActivisionSony Computer Entertainmentの2社が務めた。(日本市場についてはSquare Enixが担当した。)

筆者自身、007については映画の知識しか持ち合わせておらず、今回をきっかけに原作小説を読み始めた程度のものだが、ゲームそのものについては全編日本語吹替のフルローカライズのおかげで終始快適に遊ぶことが出来た。
すでにキャンペーンを2周し、マルチプレイも一通りのマップを体験してみたが、意外にも良作ではないかという疑念が自分の中に渦巻いており、比較的古い作品ではあるが、その理由を簡単にまとめておきたい。
以下、Xbox 360版(日本版)の感想である。


手触りの良いシューター

本作の感想を述べる前に、開発のTreyarch社について少し前置きをしておきたい。
すでにFPSファンからは多くの支持を得ているデベロッパーだが、そのきっかけともなったCall of Duty: World at War(2008年発売)の存在はとても大きいものがあるだろう。
この作品はそれまでタブーでもあった日米太平洋戦争をテーマとしていたこともあり、日本ではあえなく発売が見送られてしまったが、Call Of Dutyシリーズの中では間違いなく傑作に位置付けられる作品だ。
特にマルチプレイにおけるマップの造り込みや武器及びパークのバランスは秀逸で、文字通り中毒性の高いオンライン対戦を実現していたことは記憶に新しい。
日本人プレイヤーの人口不足から最大の難点はラグ問題に帰結してしまうのだが、キャンペーンの映画的演出等含めて、Treyarch社の底力を痛感させる作品であったことは確かだ。

さて、今回の007 慰めの報酬はそのCall of Duty: World at Warと同時期に製作された作品である。
つまり技術仕様その他、ゲームの骨格を形成するものはほぼ共通であったことは容易に想像出来るだろう。
すでに私はCall of Duty: World at Warのヘビーユーザーでもあったが、予想通り本作の手触りの良さはまさに冒頭から確認することが出来た。
もちろんこれはTreyarch社の作品に限らず、様々なFPS作品をプレイしてきた人間にとっても特に違和感を感じさせない操作性及び視野角ではないかと思う。

特徴的なのはFPSを採用しながらも、物陰へのカバー時にはGears Of WarのようにTPSの視点に切り替わるところだろう。
これはUBI製のRainbow Six Vegasに代表される視点変更システムだが、これが驚くほど効果的に作用していたことは紛れもない事実であり、むしろ本作を快適なシューターに至らしめている理由はこの1点に集約していると言ってもいいぐらいだ。

この視点変更のマジックは、例えばTPS時はプレイヤーに戦略の糸口を掴ませることが出来、さらに映画的な演出を増幅させる効果がある。
FPSでは敵をサイトの照準に合わせる行為=エイム動作が肝心要の攻略要素となってくるが、TPSの場合、そこまで神経質な操作を要求されないため、結果的に長時間でも疲れない。
本作ではこれが大きなアドバンテージとなり、ラストまでテンポ良く攻略を進めることが出来た。

昨今のシューター作品というものは、そのほとんどがFPSとして存在しているのが現状だが、本作のようにFPSとTPSのハイブリッドなスタイルはもっと市場に登場して欲しいと思う。
特に今回のような映画原作のゲームなら見た目以上の効果が生まれるのは否定出来ない事実である。
FPSの目線だけでは補完出来ない映画的演出というものをTPSによって実現可能となるし、何よりも遮蔽物にカバーしながら敵の銃弾を避ける姿はいつ見ても良いものだ。

映画原作をベースにした作品というものは、主人公のキャラクターといかに親和性を保って最後まで楽しくプレイ出来るかどうかである。
本作のように視認性や操作性において及第点以上のクオリティを冒頭でプレイヤーに感じさせた点については、その後の不満点を矮小化させる効果もあるだろう。
それらについては後段で詳しく言及するつもりだが、まずは世のシューター好きを安堵させる第一印象であったことは明言しておこうと思う。


簡易ステルスアクション

007は世界で最も有名なスパイである。
このジェームスボンドという色男はいわゆる諜報活動を秘密裏に行うスペシャリストだ。
このプロットをゲーム化した時、やはりある程度のステルスアクションは映画同様に必要不可欠な要素と言えるだろう。

古くはMetal Gear Solidの時代から、最近ではAssassin's CreedSplinter Cell: Convictionなどの成功も記憶に新しいが、ステルスアクションはファンの多いジャンルとしても有名だ。
そうしたコアなファンから見れば、本作のステルスなど大トロの横に控え目に佇むサーモンのようなもので、ある種フェイク的な取って付けた感が漂うのは仕方がないところだろうか。
しかし、このサーモン、その味は大トロに負けず劣らず美味である。

操作を少し説明すると、まずは足音を消すためにしゃがみ歩きで敵の背後に近付き、スティック押し込みで格闘モードに移行。
そこでランダムに表示されるボタンを時間内に押すとめでたくテイクダウンが発動し、その場の安全が確保される仕組みだ。
ここで倒した敵を物陰に隠す必要もなく、そもそも敵の行動パターンも把握しやすい安楽な仕様のため、極めて難易度の低い簡易的なステルスアクションと言えるだろう。

昔からステルスアクションには相当な思い入れのある私だが、このようにあまりにも難易度が低い本作の仕様はある意味で潔い開き直りではないかと感じた。
なぜなら今般のステルスに関する上記の一連の動作には一切の無駄がなく、ワンボタンアクションで発動するテイクダウンのシンプルさが逆に攻略のテンポを加速させていたからだ。
ステージによっては敵を倒すことなくクリア可能なシーンも用意されており、前述した操作性の良さも手伝って相応のカタルシスを得ることが出来た。
敵の数や監視カメラの挙動をもっとシビアにすることも当然に可能だったはずだが、開発側はあえてそれをやらなかったのである。

難易度やシステムその他全てにおいてカジュアルな作風を貫いた作品、それが今回の007ゲームの本質なのだ。
人によってはこのステルスが中途半端な実装に見えてしまうのかもしれないが、あくまでも映画原作ゲームであることを考えた時、簡易的に誰もが楽しめるような映画的演出は多ければ多いほどいい。
そういった映画とクロスオーバーしていくシークエンスはファンを自然に喜ばせるものとなり、映画本編へのフラッシュバックを強く促す効果を持っていると思う。
確かにこの難易度では若干の物足りなさが残ってしまうが、映画との親和性という目的に限れば、それは十分に果たされたと言えるのではないだろうか。


映画との相違点

今回、パッケージデザインは映画「慰めの報酬」をベースにしているが、実際の中身は「カジノロワイヤル」と「慰めの報酬」からそれぞれシーンを寄せ集めた格好だ。
(もちろんここでいう「カジノロワイヤル」とは1967年製のものではなく、2006年製のリメイク版を指している。)
ここであえて寄せ集めというネガティブな言葉を使わせてもらったことには原因がある。
なぜなら本作のキャンペーンは映画本編と同じ時間軸の流れに沿っていなかったからだ。

例えばオープニング、いわゆるChapter1はいきなり「カジノロワイヤル」の終盤からスタートする。
以降のステージ展開も映画本編の流れにきちんと寄り添うものではなく、いわゆるコンテクストがバラバラで全般的に節操がない印象だ。
ザッピングのような今回の手法の場合、確かにほんの少しのスタイリッシュ感は保たれるのかもしれないが、このような継ぎ接ぎだらけのキャンペーンでは恐らく映画を観ていない方の場合、物語への理解に相当苦労することになってしまうのが簡単に予測出来る。

少なくとも、この2本の映画は新生007にふさわしい重厚な脚本をベースにした傑作娯楽映画である。
それをゲームというプラットフォームで、映画本編と同じ流れに沿った手に汗握る展開を味わえなかったのは非常に残念だ。
特に日本版は映画版と同じ声優を使った日本語吹替によって、映画とゲームの架け橋的アプローチを実践していただけにこの点は悔やまれてならない。
せっかくの良いシナリオがこれでは台無しである。

少し脱線するが、映画本編の感想も簡単にまとめておこうと思う。

映画の「カジノロワイヤル」と「慰めの報酬」は前編と後編という意味合いを持っている。
まず「カジノロワイヤル」自体は原作者イアン・フレミングが最初に執筆したボンド作品であり、要するに007の称号を得てまだ間もない若かりし頃のエージェントの姿を描いている。
次ぐ「慰めの報酬」に関しては映画オリジナル脚本となっており、すでに故人である原作者はもちろんタッチしていない。
よってこれから映画をご覧になる方は2本連続で鑑賞することを強く推奨する。

その中身はというと、率直に申し上げて、ボンド役ダニエル・クレイグの好演が随所に光る傑作スパイムービーで語弊はない。
当初、悪役顔の彼がボンド役に決まった時は世界中からバッシングの嵐だったようだが、見事に作品で悪評を絶賛の声に変えた。
確かにダニエル扮する新しい007は過去作品から見ても若々しく、時に過剰なほどストイックであり、尚且つフィジカルに恵まれ、さらに人間味あふれる存在でもある。
これは原作そのものが若かりし頃のボンドを描いているが故の賜物だが、少なくとも前任者までの007のイメージからは大きく路線変更したスタイルには間違いないだろう。

こうしたキャラクターの変化に応えるかのように、映画本編の演出も往年のスパイ映画のように享楽的で大衆的な路線からは大きく離脱し、より現実的な人間ドラマ及びサスペンス方向にシフトしていたことは象徴的なトピックである。
例えば同じジャンルに属する「ボーン・アイデンティティー」という硬派なスパイ映画があるが、一見して両者の雰囲気はとてもよく似ていた。
(ボンドはイギリスのMI6所属だが、スペシャルゲストでCIAのジェイソン・ボーンが出演しても全く違和感なかったように思う。)
このあたりは映画版のバットマンがそれまでのコミカルな路線を捨てて「バットマン・ビギンズ」として再出発した経緯と非常によく似ている。

もちろん、こうした若返り及び路線変更は賛否両論があって当然だ。
往年のボンドファンがこれは007じゃないと嘆いてしまう絵も想像に難くない。
しかし私がこの2本を傑作と位置付けるのは、そうした懐古ファンの声を差し引いたとしてもこの原作の素晴らしさは揺るぎ無いものであると確信しているからだ。
この原作小説は映画よりもさらにアクションシーンが少なく、むしろハードボイルド小説ではないかと思うほどにストイックな内容である。
この本をベースにしている以上、若いボンドの人間的成長を描く上でリアリティを増す結果となってしまったのはある意味で自然の摂理だったのではないかと思う。

ちなみに、おなじみのボンドガールたちもただのお飾りではなく、必要不可欠なヒロインとしてボンドの人間味を引き出す重要な役割を担っていた。
そこにはかつての007映画のように、表面的で刹那的なセクシー担当という偶像主義で終わらせなかったことに意義があると思えてならないのだ。

つまりこの2本の映画は、ボンドの心の葛藤、要するにその内面に踏み込んだ007映画の新境地とも言える作品なのである。
その主役として陰のあるダニエル・クレイグの抜擢はまさに適材適所と言うべきものだった。
(当初はユアン・マクレガーがボンド候補だった模様だが、ダニエルで正解だったと思う。)
例えばこれが前任者のピアース・ブロスナンの年の功を生かした落ち着いた身のこなしではなかなか実現出来なかっただろう。
時にはジャック・バウアーのように、時にはジェイソン・ボーンのように、力強く画面を駆けずり回るダニエルを見て私は1つの確信を得た。

これが真の007であると。

話を戻そう。
このような映画原作のタイアップゲームには大前提として劇中の要素がふんだんに盛り込まれていなければならない。
印象的な映画のワンシーンがある程度のリアリティを持って再現されていなければ、そもそもファン向け娯楽作品という趣旨から外れてしまうからだ。
そこから考えると、本作のキャンペーンは少々の物足りなさ、食い足りなさを感じるものであったことは否定出来ない事実だ。

確かに映画のワンシーンを切り取った背景、いわゆるマップの再現性は精密で素晴らしいクオリティだったが、そこで繰り広げられるシークエンスはとても安っぽく見え、終始漂うお手軽感が最後まで拭えなかった。
所詮ゲームだからという割り切った思想も開発者には必要な能力だが、映画本編(及び原作小説)に心酔していたプレイヤーからすると寂しい限りである。
また、開発段階ではスクリーンショットとして伝えられていた要素がことごとくカットされていたのも残念だった。
(例えば海上でのモーターボートによる逃走劇やアルファロメオアストンマーチンのカーチェイスシーンなどがステージとして登場しなかった。)

しかし、一方でゲームならではといった要素も確認することが出来た。
例えばカジノで毒を盛られて死にそうになるボンドの名演シーンだが、映画ではカットされていた(と思われる)駐車場の車まで息も絶え絶えに辿り着く場面をプレイヤーに操作させたことはとても良かった。
他にも岩壁に囲まれた砂漠地帯における軍との銃撃戦やモンテネグロ鉄道の列車内での戦闘も実際の映画本編では存在しなかったシーンだが、Chapterとしてそれぞれ独立し、登場した。
個人的に自分の好きな映画のワンシーンがこのように捕捉説明されるシークエンスの存在は、本作をプレイして本当に良かったと思える瞬間である。
映画では語られなかった側面を描くことでファン向けという要素はさらに深まるし、そこで自ら銃器を持って戦うという行為は主人公と自分を重ね合わせることが出来、これはつまりタイアップゲームの醍醐味と言える部分に直結する。
ペシミズムの観点から見てしまうとチープで物足りない印象を持ってしまうのだが、映画との相違点をこのようにポジティブに捉えることで本作の印象は様変わりするのだ。


諸悪の根源はQTE

しかしどうしてもこれだけは言わせて頂きたいことがある。
本作の致命的とも言える欠点についてだが、それは昨今のアクションゲームに当然のように実装されているQTE、いわゆるクイックタイムイベントの存在である。
私は以前からこのシステムに対しては批判的な立場を取っているのだが、その原因は失敗からリトライまでの間に攻略のテンポが大きく損なわれてしまうことと、さほどカタルシスを得られないことの2点にある。

今回も巷にあふれるアクションゲーム同様、ボスキャラとの格闘シーンにおいてタイミング勝負のQTEを強いられてしまったのだが、そもそもゲームの根源的な面白さはこのようなタイミング勝負で決められるものではないはずだ。
これがリズミカルにボタン操作させる音ゲーならまだしも、アクションゲームに限っては自キャラを自由自在に動かして敵をスマートに殲滅することに意義がある。
FPSとTPSを混在させることでプレイヤーの没入度を高め、ある時はジェームス・ボンドよろしくステルスキルを颯爽と決め、さてボスを華麗に始末するかという局面でQTEが発動するのだ。
せっかくのスパイゲームのオチがこれでは残念無念としか言いようがない。

確かに映画でも実際に行われた格闘シーンの再現であるため、開発側にとっても苦肉の策としてこのようなQTEを実装したのかもしれない。
しかし、失敗するたびに最初からやり直しではテンポも削がれ、冷や水を浴びせられた格好となってしまう。
出来ることならQTE自体の数を減らし、さらに直前リトライが可能なものにして欲しかったと思う。
アクションゲーム好きの私はこのシステムが登場した頃から肌で感じていることだが、そろそろQTEに頼った安直なボス戦というものは淘汰されていって欲しいものである。


基本に忠実なマルチプレイ

最後にマルチプレイの話になるが、およそオーソドックスなFPSオンラインという印象だ。
キャンペーンについてもそうだが、グラフィックに関しては4年前のゲームだけに素晴らしく鮮明でリアルというわけでもない。
雰囲気はRainbow Six Vegasに近く、そのせいかファーストインプレッションは相当に地味な対戦だと感じてしまったぐらいだ。

しかし、乱戦を誘発しやすいマップ構造が功を奏し、Treyarch製特有の近距離戦、いわゆる殴り合い系の対戦が楽しめることは3回もプレイすれば理解出来た。
ルールも黄金銃など007ならではの要素もあり、手触りの良い操作性のおかげでプレイするたびに自身の上達を実感出来る内容となっている。
また、他のゲームと同様に武器やガジェットについてはアンロック制を採用しているものの、種類や数もそれほど多くないことから全体のバランスが無闇に崩壊することもなく、レベル依存のマルチプレイという批判を回避出来ている点は評価に値する。
(つまり初期武器でも上級者と対等に戦えるバランスが保たれているということ。)

余談だが、私の場合、FPSにおけるマルチプレイはシンプルであればあるほど面白いと実感するタイプである。
例えばInfinity Ward製のCall Of Dutyシリーズなどは武器やガジェットに加え、各種パークなどが豊富に用意されており、確かにミリタリーファンやヘビーユーザーにとってはカスタム性に優れている面があるものの、このようなレベル依存の激しいマルチプレイでは初心者にとって非常に敷居が高いのではないかと感じている。
もちろん死んで覚えるのがマルチプレイの肝ではあるが、武器やパークの優劣で簡単に勝敗が決してしまう仕様は新規プレイヤーの流入をせき止めてしまう結果にもつながりかねない。

例えばHalo 3Battlefield 1973のマルチプレイに不思議な中毒性が存在する理由は、単純明快なそのシステムにある。
つまりアンロック制の武器取得システムに注力するのではなく、対戦マップやルールを丁寧に造り込んでいくシンプルな開発姿勢がそこにある。
以前から私はCall Of Dutyシリーズのファンでもあるし、アンロック制の武器やパークの存在を否定するつもりは全くないが、実際の喧嘩で素手とナイフで戦わせるようなアンバランスな仕様はFPS人口の増加に歯止めをかけてしまう懸念材料となってしまうのではないだろうか。
よって、本作のようにマップ構成とアンロックシステムが好バランスで存在している作品は貴重であり、出来ればもっと多くのプレイヤーに参加して欲しいと願うばかりだ。
(発売から数年が経過した今、チームデスマッチにしか人がいない状況で、しかも日本人プレイヤーは週末でも少ないためラグの問題も発生している。)
最新のFPSタイトルからすれば全体に漂う安っぽさは当然に否めないが、敵を殲滅するという根源的なカタルシスを得るには必要十分なスペックではないかと思う。


まとめ

さて、結論として本作は果たして買いか否か。
答えは2つのパターンに分かれる。

まず、FPS/TPS作品という枠の中で考えた時、例えばCall Of Dutyなどにはとても及ばないチープな演出とシンプル過ぎるシステム設計のおかげで、自然に不満の声が上がってしまうことは容易に想像出来る。
先述したようにグラフィック自体も平均レベルであり、マルチプレイに登場する武器やガジェットの類いも数が少なく、最新のFPSタイトルと比べると中途半端感は否めない事実だ。
しかし、これが映画原作のタイアップゲームという目線に立つと話は若干変わってくる。

確かにQTEの存在など不満点は各地で散見されるものの、ゲームそのものはとても良く出来ていると言わざるを得ないのだ。
これは全体的に難易度が低く設定されていることも要因の1つだが、随所にストレスを軽減させる工夫が施されていたことが大きい。
例えばキャンペーンでは映画にはなかった謎解き要素(鍵開け等)もいくつか登場したが、Bioshockのようにプレイヤーを必要以上に煩わせる類いのものではなく、ゲームの進行を極力妨げない簡易的なギミックであった。
各Chapterについても理不尽な銃撃シークエンスは皆無で、私自身、最高難易度でもテンポ良く快適なプレイが出来たのは意外な驚きでもあった。

だからこそ、映画本編のコンテクストを無視したキャンペーンの流れは残念でならない。
繰り返すが、映画の内容を知らない新規プレイヤーにとっては魅力的とは到底思えない展開だと思う。
この仕様ではシナリオの意味さえ掴みにくいので感情移入も希薄となり、最終的にネガティブな印象を持たれても仕方のないことだろう。

願わくば、本作を手に取る前にぜひ映画本編からご覧頂くことをお勧めする。
もちろん、先にゲームをプレイしてから映画の方に興味が湧くという構図もタイアップゲームの存在意義の1つではあるが、映画本編を知っているのと知らないとでは雲泥の差がある。
(映画鑑賞済みの方なら、本作が真面目に作られたファン向け作品であることを理解してくれると思う。)

要するに映画をすでに体験済みの方でシューター好きなら間違いなく「買い」の作品である。
先述したようにこのゲームには映画2本分の内容が凝縮されている。
本作に週末のカジュアルゲームというポジションを与えるとするならば、間違いなくエースストライカーになり得る可能性を秘めている。
フルプライスの価値があるかと問われると答えに窮するが、発売から数年が経ち、価格がこなれた今の相場なら大損することもないだろう。
007好きには自信を持ってお勧めしたいタイトルだ。


おわりに

映画原作のゲームは失敗作が非常に多い。
特にファンが多い映画ほどプレイヤーの視線はシビアなものになるし、開発側も余計なプレッシャーを背負うことになる。
今回、プラットフォームが現行機をほぼ網羅している点を考えると、それなりに大きなプロジェクトだったことが分かる。
そうした中でTreyarch社はFPS/TPSという自社の得意分野を生かし、Call Of Dutyシリーズとは異なる毛色のカジュアルゲームを完成させた。

これまで述べてきたように、残念な部分は多々ある。
全体のボリューム不足も否めない。

しかし、誰もが気軽に遊ぶことの出来るシューター作品というものは今の時代に貴重な存在だ。
FPSやTPSが苦手な方にもぜひプレイして欲しいタイトルでもあるし、日頃からFPSを嗜んでいるヘビーユーザーにとっても心地良い息抜きとなってくれるだろう。

それからローカライズについても一言。
日本語テキストの無骨なフォントには思わず苦笑してしまったが、全体的に見てSquare Enixは良い仕事をしたと思う。
日本版の発売が北米市場から半年近く遅れてしまったことは残念だが、それでも映画版と変わらない吹替ローカライズは賞賛に値するだろう。
007の新作は年内にも公開予定だが、もし再びタイアップゲームが開発されるなら本作と同じ開発陣及びパブリッシャーでお願いしたいものだ。
(新作「007 Skyfall」は2012年10月26日にロンドンを皮切りに上映予定。主演はもちろんダニエル・クレイグ。必見である。)

最後に点数についてだが、QTEにおけるストレスに-10点、キャンペーンの不自然な流れに-5点、敵AIの挙動に-1点とした。
その他重箱の隅をつつこうと思えば多々あるが、数少ないカジュアル系FPS作品として平均点以上の娯楽を提供してくれたことは確かである。
(ボリューム不足を補うための周回プレイ特典などがあればもっと点数は伸びた可能性もある。)

どちらにせよ、週末の娯楽としては緩い雰囲気で気軽に遊ぶことの出来る貴重なタイトルの1つと言えるだろう。
それはまるで地上波TVの映画劇場のように安楽でノスタルジックだ。
大人はビール片手にこの作品を楽しむ権利がある。
そう、ダニエル・クレイグのように不敵な笑みを浮かべながら。



総合評価:84点




007/慰めの報酬



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