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NEODEAD MUSIC BLOG

音楽を思考する

和製EDMの夜明けを感じる1枚(CTS)

NO REASON

CTS「NO REASON」★★★★☆


EDMとは何か

海外におけるElectronic Dance Music(以下、EDM)は各国のチャートを見ればご覧の通り、その盛況ぶりは今に始まったことではない。
しかしここ日本では、未だ爆発的な流行の兆しは見えていないように思う。
確かに日本の音楽シーンは古くから特殊なムーブメントを形成するパターンが多く、Club Musicに限ればEuro Beatから派生したパラパラなどは世間の記憶にも新しいところだ。
一部の声として、それが世界に遅れている原因などと、いわゆる日本のガラパゴス化を嘆く声も聞かれるが、私はむしろ土着文化の1つとして胸を張って世界にアピールするものだと思っている。
音楽は文化であり、まずはその土地の民族に受け入れられてこそ定着し、そして波及していくものだ。

EDMに限れば古くからアメリカ、そしてヨーロッパを中心にシーンが形成され、その波及段階としていよいよ日本に上陸か、という歴史的に見ても重要な時期に突入している。
販促的に見れば日本の各レコード会社にとってもすでに機は熟したと言えるだろうし、要するに流行の着火点を各社が血眼になって探っている状況でもあるのだ。
すでに巷にはEDMを中心とした選曲の企画系CDが店舗に並び始めているし、また、既存の打ち込み系アーティストをEDMとして広義に捉えて販促する動きも目立ってきた。
まさに、あの手この手を使った業界のなりふり構わぬ必死さがこちらまで伝わってくるようだが、悲しいかな、その意気込みに反比例するかのように、日本におけるEDMはまだまだ下火の状態が続いていると言っても過言ではない。

その原因の1つに、海外製EDM系楽曲の独特な空気感、というものがある。
これは先に述べた土着文化の話にも通じることだが、海外で人気を得たものが必ずしもこの日本で支持を得るとは限らないということだ。(もちろん、その逆も然りだろう。)
私が感じるに、例えばアメリカの現在のビルボードを賑わすようなEDM系楽曲において、日本人の琴線に触れるメロディや音色を扱ったものは極端に少ない。
いわゆる日本人好みな哀愁系美旋律をサビに持ってくるような、例えば美しい情景を想起させるような美的世界観に彩られた楽曲などはほとんど見当たらない。
それとは逆にClubを想定したパーティー系楽曲ばかりが目立つのだが、これがここ数年で突如隆盛したEDMの本質的部分でもある。

つまり、Electronic Dance Music、それ自体は今に始まったジャンルではなかったのだが、よりアグレッシブでテンションの高いパーティー系Club MusicをEDMとして総称するようになったのだ。
これは風営法絡みで規制の厳しいClub後進国、この日本においては相当に不利な状況と言えるだろう。
それを裏付けるように、海外におけるEDMの代表格はDavid GuettaやTiesto、Swedish House Mafia、Aviciiなど、元々HouseやTranceのシーンで活躍していたDJ/プロデューサー達が中心である。
そこにはUnderworldDaft Punkといった打ち込み系バンドの姿はなく、あくまでもClubシーンが発祥地であること、この点について日本市場はとても大きなハンディキャップを背負っていると言わざるを得ない。

こうしたClubシーンを想定して製作された海外製EDM楽曲というものは、パっと見は痛快であり、多幸感にあふれ、心身ともにポジティブなヴァイブスを感じることも出来るが、例えばClubに行ったことがない人にとっては、どこか軽薄でどれも同じ曲に聴こえてしまうという事態も当然に考えられるだろう。
そこで各アーティスト達はDub Stepなど比較的新しいリズムやサウンドを取り入れたり、R&BやHip Hopシーンのアーティストとコラボすることによってより大衆にアピール出来るものを探し求めているのが現状だ。
つまり結論として、昨今の世界を席巻するEDMというのは、ド派手なブレイクとドラムロールを搭載したパーティー系Houseであり、Vocalの入ったElectro風味なPops、はたまたTrance系音色を取り入れたDub Stepなど、基本的にClubにおけるフロアキラーアイテムとして存在価値のあるジャンル、と私は解釈している。


日本におけるEDMの在り方

前置きが長くなってしまったが、ここで日本の話に戻そう。
近年の日本におけるClub派生のチャート音楽としてはR&B、Euro Beat、Trance、そしてHouseなどが挙げられるだろう。
古くからはYMOTMN、そして電気グルーヴなどTechno Popの下地も整っており、これは広義のElectronic Dance Musicとしては十分なポテンシャルを秘めた土地とも言えよう。
しかしながら、先述したように海外製EDMの勢いはここ日本では今ひとつ盛り上がって来ない。
その理由の大部分は楽曲にあるということ、それはすでに述べた通りだが、加えて国産のDJ/プロデューサー達の活動がやや出遅れているような気がしてならない。
今のEDMがClub Musicを意識して作られている以上、その質感を表現出来るのは現場の空気を1番良く知っているDJ達である。
Club後進国の日本であるが為に、これまで辛酸を舐めてきた日本のDJにとって、このEDMの波は世間一般大衆に広くアピールすることの出来る最大のチャンスではないだろうか。
このチャンスを生かすも殺すも、彼ら次第だと私は思っているのだが、ここでようやくCTSの話に移りたいと思う。

CTSは情報を見る限り、各メンバーの素性は明らかにされておらず、Daft Punkのように覆面を被っていることから未だ謎に包まれたユニットである。
しかし、その曲調は哀愁系美旋律を前面に押し出した日本人好みな楽曲が散見され、かなり日本市場を意識した内容に仕上がっていると思う。
また、海外製EDMがどちらかというとHouseをベースにした楽曲が多いのに対し、CTSのベースにあるのはTrance、それも1990年代後期〜2000年代初頭にかけて日本でも流行したEpic Tranceの骨格に近い。
特に3曲目の「364」や5曲目の「Fantastic Dislike」に至っては当時のEpic Tranceの楽曲をご存知の方なら不思議な懐かしさを感じることが出来るだろうし、6曲目「Progressive Precious Loneliness」においてはここ10年ほどで大化けしたProgressive Houseに対する彼らなりの返答とも言える内容であり、これは和製Dinkaと呼んでも語弊はないクオリティだと私は感じた。
恐らく海外製EDMを意識して作られたかと思われる10曲目「Just Bring It」や11曲目の「Hello Universe」についても、アルバム全体の世界観を崩壊させるものではなく、それはつまり音色が下品になり過ぎないように一般リスナーに対しての配慮さえ窺い知ることが出来た。
このあたりはかなり現場、つまり日本のClubシーンを綿密にリサーチしたような痕跡さえ感じられる部分であった。

Vocalについても不満はあまり見当たらない。
全曲、ボコーダー処理加工された声色には賛否が出て当然だと思うが、恐らく彼らの意図するところはVocalも1つの楽器として捉えているんだろうと思う。
個人的に打ち込み系音楽における男性Vocalというものは自分にとって相性が良いので特に大きな不満は感じなかった。(むしろ歌唱力は上手いレベル。)
また、英語にこだわることなく、日本語歌詞を率先して取り入れているのは1つのトピックになるだろう。
これにより歌の存在が強調され、楽曲も引き締まった印象となっていた。
いきなり世界を視野に入れるような大風呂敷を広げるのではなく、まずは日本のリスナーを相手に勝負するんだという、等身大の彼らの姿はもっと評価されてもいいはずだ。

惜しいのは音色、そしてアレンジである。
本作を最初から通して聴いた時、一服の清涼感と同時に、漠然とした物足りなさを感じたのも事実であり、それは恐らく音色の好みとCメロ不在のアレンジにあるのではないかと思う。
まず音色については、例えば2曲目の「Sayonara Twilight」をリードするシンセ音はEpic Trance以降、日本で独自に進化を遂げていったJapanese Tranceを彷彿とさせる音色であり、私はこれをあまり心地良いとは思わない。
これは7曲目の「Mirror」のサビでも登場している音色だが、System FやGouryellaに衝撃を受けた世代としては、少しチープで騒がしく感じてしまった。
もちろん、EDMというジャンルを考えれば騒がしくて当然ではあるのだが、他の楽曲と比較した時、少々アンバランスな印象を受けてしまったのも事実である。

それからアレンジについては、やはり歌が入っている以上、Cメロにも力を入れて欲しい気持ちもある。
これはCTSがどの方向を目指しているのか、という命題にも直結することだが、和製EDMの代表としてヒットチャートを狙い、そしてまたClubでもDJ達にプレイされるという状況を産み出そうとしているなら、楽曲のアレンジはシンプル且つ驚きと発見のあるものにして欲しいと思う。
どのジャンルにおいても、予定調和に進行する楽曲は分かりやすさと同時に飽きられやすいというデメリットを持つ。
曲にフックを持たせることで印象的なフレーズがさらに躍動していく姿をCTSの楽曲でぜひとも実現して欲しいと思う。


和製EDM=哀愁系Dance PopというCTSの解釈

だが総合的に見ると、このアルバムは万人にお勧めしやすいのは確だ。
例えばこれまでClubに縁がなかった人でも、反対にClubで遊んでいた人にとっても、それから普段RockやPopsしか聴かない人にとっても、平均して心地良い作品である。
その理由はすでに述べてきた通りだが、やはり哀愁的な旋律を前面に押し出していること、これが大きい。
また、海外製EDMと比べてEpic Tranceをベースにしている分、疾走感と高揚感が生まれ、例えばドライブミュージックとして、Club以外でのリスニングにも適した内容となっている。
こうした世界観及び質感は、Q;indivi元気ロケッツなど国産の良質なDance Popとはまた違った魅力であり、そしてまた海外製EDMとは明確に異なるベクトルを感じることが出来たのは、今回本作を聴いてみて最大の収穫だったように思う。

近年の日本のClub Musicシーンにおいては、Japanese Tranceのブームが去った後、ピアノを主体とした哀愁系Houseが一般の支持を得て、その後House Nationに代表されるように、ElectroやNu Discoといった周辺のジャンルも飲み込みながら市場が成長してきた経緯がある。
その下地において、昨今の海外製EDMというものはやはりパーティーピープル向けの楽曲が主流な為、なかなか今の日本では受け入れられにくい。
これはここ数年の日本のClub産業が衰退化していることも遠因として考えられるが、彼らCTSが起爆剤となってシーンが起死回生していくのかどうか、これは大変興味の湧く話題でもある。
まさに本作が夜明けとなり、日本の音楽市場が再び活性化していく姿を切に願いながら、ひとまず私の感想を終わりたいと思う。
次回作もMade In Japanの利点を生かした作品となることを期待して。





NO REASON
CTS
NO REASON
曲名リスト
1. No Reason
2. Sayonara Twilight
3. 364
4. Ever
5. Fantastic Dislike
6. Progressive Precious Loneliness
7. Mirror
8. Lost Innocence
9. Signal Paradox
10. Just Bring It
11. Hello Universe
12. Parallel World
13. No Reason (Banvox Remix)
14. No Reason (Bapjap Remix)

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※今回のレビューはAamzonに転載しました。