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NEODEAD MUSIC BLOG

音楽を思考する

モルス、吠えないのか?

CD Review

Liberation=Termination

Mors Principium Est「Liberation = Termination」★★★★★


メタル王国フィンランド

突然だが、フィンランドと言えばメタルである。
Hanoi Rocksの時代はさておき、近年にかけては良質なメタル系バンドが湯水の如く湧き出ており、世界的に見ればHR/HMシーン自体の衰退が叫ばれる中、このフィンランドの暴虐たる鋼鉄系音楽の勢いは留まることを知らない。
HIM、NightwishStratovariusKorpiklaaniChildren Of BodomSonata Arctica、Turisas、、、HR/HMというジャンルを少しでもかじったことのある人ならこれらの名前にすでに見覚えがあると思うが、全てフィンランド母国とするバンド達である。
中でもメロディックデスメタル(以下、メロデス)の礎を築いたChildren Of Bodomや、今やシンフォニック・メタルの重鎮とも言うべきNightwish、そしてフォーク・メタルという新境地を切り開いたKorpiklaaniなど、シーンの起爆剤として世界に衝撃を与えたバンドも少なくない。(むしろ国の規模からすると多い方だろう。)

そもそもヘヴィメタルというジャンルは、文化と文化のぶつかり合いが最も顕著に現れる音楽だ。
これほどバンドの出身地によって音楽性が異なるジャンルも珍しいのではないだろうか。
例えば今回取り上げるメロデスという音楽にしても、突如一夜にして誕生したというわけではなく、まずはイギリスにおけるNWOBHMを軸とする正統派HR/HMの存在があり、そこにアメリカ西海岸で勃発したスラッシュメタル及びデスメタルの登場を経て、やがてはヨーロッパにおけるゴシックメタルブラックメタルといったサブカルチャーを内包した音楽と紆余曲折の融解をしながら、そして最終的に北欧メタル特有の美旋律を曲に組み込んでいったという歴史的な流れというものがある。
このとき、要所要所において文化と文化が衝突を繰り返し、細胞分裂の如き混沌の時間を経て、新たなサブジャンルが生まれていったことを私達は改めて認識しておく必要があるだろう。
良くも悪くも、ヘヴィメタルの特徴はこうした文化衝突に端を発する「清濁併せ呑む」気質にあると私は思う。
それはここ数年で北米で支持層を拡大したメタルコアというジャンルについても例外ではない。


死は始まりに過ぎない?

長くなるので私の勝手気ままなヘヴィメタル論については別の機会に譲ることとして、今回はMors Principium Estというフィンランドのバンドを紹介したい。
少し覚えにくいバンド名だが、その意味はラテン語で「死は始まりに過ぎない」という、まるで中二病をこじらせたかのような名前でもある。
しかし、この言葉が持つ語感は身体の五感に訴えかける不思議な魅力があると言ってもいい。
試しに声に出してつぶやいてみて欲しい。

「モルス・プリンシピアム・エスト」

どうだろう。
まるでラピュタ語のように甘美で禍々しい響きだと思わないかね。
何も感じない?むしろ舌をかみそうだと?
言葉を慎みたまえ、君はラピュタ王の前にいるのだ!

という寒いボケはさておき、個人的にはAsian Kung-Fu Generationに匹敵するほどクールな名前だと思っている。
もはやMetallicaMegadethAnthrax、Slayerといったスラッシュ四天王のように、バンド名が単語1つで完結する時代ではないのだ。
ジャンルは少し違うが、Liquid Tension ExperimentやStory Of The Year、Poets Of The Fallなどは1度聞いたら忘れられないインパクトがある。
ちょっと狙い過ぎだが、日本のFear, and Loathing in Las Vegasというバンド名も面白い。
やはりTygers Of Pan Tangの方向性は正しかったのだ。
Yngwie J. Malmsteen's Rising Forceのように長過ぎる割に意味が軽薄なのは論外だが、兎に角、Mors Principium Estは私に好印象をもたらすネーミングだった。


激烈に疾走する鋼鉄の音塊

さて、今回紹介するのは彼らにとって3枚目のスタジオアルバムとなる「Liberation = Termination」(2007年発表)である。
最新作にあたる作品も2012年にリリースされているのだが、あえて今回はこの作品を推したい。
確かに彼らは1stの頃から高品質なメロデスを奏でるバンドとしてシーンの注目を浴びてきたのだが、この「Liberation = Termination」の出来は今なお特筆すべきものがある。
アルバム自体は全体で40分にも満たない作品だが、これほど濃密で激烈なヘヴィメタルを味わえる作品はなかなか存在しない。
ひとまず1曲目から解説しよう。

01「Orsus」:オープニングを飾るのは短いインスト曲。いや、曲というよりはSEと呼んだ方がいいのかもしれない。

02「The Oppressed Will Rise」:いきなりの高速ブラストビートに硬質で粒立ち感のあるギターリフが絡むというメロデス必勝パターンの1曲。特に1分50秒付近からのギターソロはAnthrax的な不穏な空気を持ちながら、後半にかけてスウィープピッキングを織り交ぜる等、テクニカルな一面も垣間見ることが出来るだろう。

03「The Animal Within」:早くも本作の代表曲が登場。イントロはTrance系の打ち込み的なビートでスタートし、そのまま豪快に高速ギターリフになだれ込むというバンドの勢いをそのまま鏡に映したかのような展開。このアルバム全体に言えることだが、効果的にシンセ音色が使われており、しかもそれがあえて主役にならないように配慮されている点は拍手ものだ。

04「Finality」:こちらも前の曲から間髪入れず始まる疾走系メロデス曲。ここまで1度もブレーキを踏むことなく突き進む姿はお見事としか言いようがない。この曲もワウを多用したギターソロが素晴らしい仕事をしており、展開の速さはもちろんだが、筋肉質な楽曲に華を添えている。

05「Cleansing Rain」:印象的なドラムフレーズから始まる美旋律な1曲。これでVocalがハイトーンボイスならインディーズ時代のX Japanを彷彿とさせる哀愁感があるかもしれない。全体的には演奏のキレの良さが目立つ楽曲でもあり、バンドの底力とも言える。

06「Forgotten」:ようやく訪れたミディアムテンポの楽曲。美旋律のツインギターから始まるこのインスト曲は往年のIron Maidenか、はたまたJudas Priestかと思わせるほど正統派ヘヴィメタルを意識したものだ。アルバムにおいては一服の清涼剤といったところ。

07「Sinners Defeat」:再び幕を開ける激烈鋼鉄音の塊。ブラストビートにテンポ良く刻まれるギターリフがとにかく心地良い。ユニゾンするシンセ音色も耳障りにならず、Vocalのグロウルもここに来てさらに迫力を増した印象も。ちなみに本作では唯一5分を超える曲であり、中盤のブレイクを挟んだ展開は様式美的で好印象。

08「The Distance Between」:パワーバラードの如きドラマティックな展開を見せるミディアムテンポの1曲。90年代Pantera以降のヘヴィネス化したHR/HMシーンを彼らなりに表現した1曲とも言えよう。ここでも北欧らしい美旋律が一役買っていることは言うまでもない。

09「It Is Done」:一転、目の覚めるような高速ブラストビートで始まるMors流メロデス。1分を超えたあたりからのギターソロがこれまた素晴らしい出来。言うまでもないが、この粒立ち感はサウンドプロダクションの成功を意味している。

10「Terminal Liberation」:こちらも典型的な高速メロデスだが、終盤にふさわしく、後半にかけてのビルドアップ感が凄まじい。しかし、最後は転調しながらフェードアウトで終わるという消化不良気味な側面も。

11「Lost Beyond Retrieval」:そしてラストはバラード調のギターインスト曲。哀愁美旋律が満載であり、そして叙情的でもあり、もはや感動的ですらある。このラストによってアルバム全体が物語のように筋の通った作品になったのも確かで、この退廃的世界観は彼らならではと言ってもいいだろう。

先に述べた通り、アルバム全体の長さは40分に満たないものだが、こちらの満足度は異様に高いのが特徴的だ。
これは曲の解説でも言及したことだが、サウンドプロダクションの良さ、そして楽曲のアレンジの巧さのおかげだろうと思う。
また、メロデスにおいて典型的な高速ギターリフとブラストビートが多用されているものの、美旋律と哀愁帯びたコード進行によってリスナーの「飽き」を見事に回避している点が素晴らしい。
加えて、どちらかというとスクリーモ的なVocalの声質もこのスピーディーな曲調と意外にも相性が良く、終盤まで心地良く聴けたのはデスメタル・ビギナーにも胸を張ってお勧め出来るクオリティだろう。
それは逆に言えば、Vocalの迫力が今ひとつ足りないということでもあるのだが、この辺は好き嫌いの問題もあるかもしれない。
私としてはもう少し殺気のあるVocalで演奏隊を威圧して欲しかったように思う。
つまり、もっと吠えても良かったかなと。


傑作の3rd

元々、メロデスHR/HMシーンの中でも比較的歴史の浅いジャンルでもあり、受け止め方も人によって千差万別である。
そういった状況において、このMors Principium Estは「清濁併せ呑む」というヘヴィメタルの本質を本作で追求してみせた。
そこにはデスメタルスラッシュメタルからの影響はもちろんのこと、オーセンティックなNWOBHMジャーマンメタルからのアイデアの拝借が多数あったこと、しかしそれがバンドのオリジナリティとして違和感なく存在していたことは、まさに文化の衝突から生まれる新たな潮流の発生の現場とも言えよう。

実はメンバーチェンジが激しく、バンドとしての将来性には若干の疑問符が付いてしまうのだが、これほどの傑作を作り上げるとは私にとっても嬉しい驚きだった。
どのバンドにおいても、3作目というのは最初の節目に当たる重要な作品と言われるが、その通り、彼らはきちんと結果を出したと思う。
それも良く出来ました、どころではない。
大変良く出来ました、の領域である。

これにはシータもパズーも喜びのあまりあの呪文を叫ばずにはいられないだろう。

モルス!

(おあとがよろしいようでw)





Liberation=Termination
Mors Principium Est
Liberation=Termination
曲名リスト
1. Orsus
2. The Oppressed Will Rise
3. The Animal Within
4. Finality
5. Cleansing Rain
6. Forgotten
7. Sinners Defeat
8. The Distance
9. It Is Done
10. Terminal Liberation
11. Lost Beyond Retrieval

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