読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

NEODEAD MUSIC BLOG

音楽を思考する

不況に克つためのドートリー

CD Review

Break the Spell

Daughtry「Break The Spell」★★★★☆


パワーバラードという名の異次元緩和

太古の昔より人類は、HR/HM系のバンドが奏でるバラードをパワーバラードと称し、崇め奉ってきた歴史がある。
筆者も幼年時代より、Whitesnakeの「Is This Love」やAerosmithの「Dream On」、Poisonの「Life goes on」など、いわゆる名曲と呼ばれるパワーバラードに囲まれ、すくすくと育ってきた。
それはいつしかHR/HM系アルバムの評価の物差しとして、このパワーバラードの出来具合を念頭に置く癖がついてしまったように思う。

実際のところ、特に北欧系美旋律HR、通称メロハーと呼ばれるジャンルにおいては、ユーフォリックに、そしてドラマティックに展開するバラードの存在が欠かせないことは、もはや世界の定説であろう。
時に激情たる熱量をヘヴィネスな音塊で表現するHR/HMというジャンルにおいて、パワーバラードの本質は一服の清涼剤的役割を超えたところにあり、それはつまり、リスナーがバンドの懐の深さを知る格好の材料とも言えるのだ。

例えばDream Theaterの「Another Day」などがそれである。
あの曲の存在がなければ、もしかするとDream Theaterの評価はここまで高くはならなかったかもしれない。
万が一、Dream Theaterをまだご存知ない方がいるならば、今からでも「Images And Words」という作品をチェックしてみて欲しい。
(ちなみに私がDream Theaterの楽曲で最も気に入っているのは「Surrounded」である。)

さて、今夜ご紹介するDaughtryの3作目「Break The Spell」(2011年発表)は、そんなパワーバラードの素晴らしさを改めて教えてくれた、近年まれにみるアメリカンハードロックの傑作である。
北米はもちろん、世界的にも有名過ぎるバンドなので詳細な説明は控えるが、本作によってDaughtryの方向性が一層明確になり、バンドとして確実な安定期に入ったことを世に知らしめた作品とも言えるだろう。
私も発売日から今まで、すでに50回以上聴いたアルバムだが、これを機会に1曲目から感想を残しておきたい。

01「Renegade」:オープニングを飾るのはキレのあるギターリフが印象的な、本作唯一と言ってもいいアップテンポな正統派HR。フィンランドのPoets Of The Fallのようなヨーロッパ的雰囲気を感じさせる旋律が心地良い。

02「Crawling Back To You」:2曲目にして早くもパワーバラード風味な楽曲が登場。こちらはUSらしい大陸的な安定感を感じさせる美旋律がちりばめられ、シングルカットもされた曲である。

03「Outta My Head」:ミディアムテンポのDaughtry流のメロハーが炸裂。いつものようにBメロからサビへと繋がる違和感のない流れが秀逸。

04「Start Of Something Good」:アコースティックな演奏をバックにChris Daughtryの素晴らしい歌唱力が映えるパワーバラード。ある意味で、この4曲目からが本作のスタートと言えるのではないだろうか。

05「Crazy」:本作を代表する名曲。このような強力なサビメロに対抗するギターソロの欠如がDaughtryの致命的な欠陥と言える部分なのだが、それをカバーするかのようにCメロを周到に準備するあたり、確信犯である。

06「Break The Spell」:静かなハーモニクス奏法から始まるアルバムタイトル曲。3曲目のようなミドルテンポのナンバーだが、同じUS出身のRedの世界観に共鳴するかのような、ある種シネマティックな楽曲に仕上がっている。

07「We're Not Gonna Fall」:USカントリーを下地にしたミドルテンポの1曲。サビに至るまでの流れが少し急峻だが、Cメロのアレンジに救われた感も。

08「Gone Too Soon」:イントロ、メロディ、アレンジ、そして歌詞、それら全てが高濃度に浸されたDaughtry流の名パワーバラード。大サビへと突入していく行程はまるで映画のワンシーンを見ているかのように感動的である。

09「Losing My Mind」:こちらもカントリー風味なアメリカ本来の土着的な文化的嗜好を匂わす楽曲。恐らく、北米が地元の方にはたまらない旋律だろうと容易に推測出来る。アメリカンロックの良心とも言えるナンバーだ。

10「Rescue Me」:緩いアルペジオをバックにChris Daughtryの歌唱センスを存分に味わえるピースフルな1曲。覚えやすいサビはきっと彼らのLiveでも大合唱となるだろう。

11「Louder Than Ever」:ここでようやくエッヂの効いたハードロック風のナンバーが登場。しかしそのスピードは抑えられており、あくまでも歌に焦点を絞ったアレンジがDaughtryらしくて良い。良い意味で、まるでギターソロのないBon Joviだ。

12「Spaceship」:ポジティブなヴァイブスが全面に炸裂したメロディックな1曲。こういった曲が書ける限り、彼らの未来は明るい。本作の代表曲。

13「Who's They」:アルバム終盤を飾るのはやはりパワーバラード。ここでもエモーショナルに展開するアレンジがお見事。

14「Maybe We're Already Gone」:カントリーを通り越してブルージーな雰囲気を漂わす1曲。そのせいか、どこかボーナストラック的な雰囲気が漂ってしまったのはマイナスか。

15「Everything But Me」:Daughtry流のパワーバラードが終盤でも炸裂。ただ、他の曲より突出した要素はなく、悪く言えば捨て曲。

16「Lullaby」:曲名通り、本作のラストを飾るこの曲は、ギター1本の演奏によるバラード。引き潮のように上手く本作を締めた。

全16曲というボリュームだが、捨て曲がここまで少ないアルバムも珍しい。
確かにバラード調の楽曲に支配され、ドライビングなハードロックは控え目のアルバムだが、その分Chris Daughtryの歌唱力に焦点が定まり、バンド本来の持ち味がより明確になった格好だ。
良くも悪くも、このバンドはVocalのChris Daughtryが主役であり、観客もそれを望んでいるため、本作の方向性はまさに正義と言えよう。

ただ、ギター信奉者である私としては、抜群の歌唱力を持つChris Daughtryに対抗するギターソロ不在のアレンジが最後まで気になった。
すでに解説してきた通り、本作のどの楽曲においてもギターソロが不在であり、それはまるでワサビのない寿司のようにある意味でパンチの欠けるものだったからだ。
Bon JoviにはRichie Sambora、AerosmithにはJoe Perry、そしてGuns N' RosesにはSlashがいたように、名だたるロックバンドには名参謀とも言うべきギタリストの存在が欠かせないのは周知の事実。
特にパワーバラードのようにリスナーの心情を大きく揺さぶる楽曲においては、歌唱力やアレンジはもちろんのこと、その合間に挟まれる情感豊かなギターの旋律は絶対に不可欠だろうと私は信じている。

何度も言うように、Daughtryの方向性はこの3作目で完璧に定まった感があるが、将来性、いわゆる今後の伸びしろはギタリストをどう活用していくかという1点に尽きるだろう。
例えばJohn SykesやReb Beachなど、出来ればゲスト参加という形でも構わないので、次回作ではギターソロが躍動する楽曲に出会えることを心から願っている。
もはや楽曲のクオリティは同ジャンル系列の追随を許さないレベルに到達しているのだから、後はほんの少し化粧をするだけでさらに美しいDaughtryの姿を見ることが出来るだろう。


ポジティブ思考の経済論

ところで、美しい国日本を目指す安倍首相によるアベノミクスだが、物価が上がった、株価が乱高下したなど、消費者心理を不安視する報道が多いことはいかがなものか。
確かに目前には消費税増税などネガティブな案件が控えているとはいえ、足元の景況感が大幅に改善されていることは大変喜ばしいことである。
そもそも長いデフレによって疲弊した日本経済を立て直す目的がアベノミクスであるならば、昨今の物価上昇は自然なことであり、むしろ政府及び日銀は物価を上げる政策を行っているのだ。
それを副作用だ何だと批判するのは理解し難く、これは副作用ではなく、むしろ本来の効能である。
つまり、物価上昇によって景気が好転しているかのような雰囲気作りを政府が行っているのだから、報道機関もそれに沿って今こそ日本経済を一緒に立て直すべきなのだ。

いつの時代も、不況に克つのはポジティブな政策とポジティブな消費者心理である。
そしてまさに、ポジティブの塊とも言うべきDaughtryの作品は、今の日本に最も必要な音楽と言っても過言ではない。
希望を持って、前に進む時だ。
やがて訪れる好景気が「Gone Too Soon」とならないように。





Break the Spell
Daughtry
Break the Spell
曲名リスト
1. Renegade
2. Crawling Back To You
3. Outta My Head
4. Start Of Something Good
5. Crazy
6. Break The Spell
7. We’re Not Gonna Fall
8. Gone Too Soon
9. Losing My Mind
10. Rescue Me
11. Louder Than Ever
12. Spaceship
13. Who’s They
14. Maybe We’re Already Gone
15. Everything But Me
16. Lullaby

Amazonで詳しく見る
by G-Tools