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NEODEAD MUSIC BLOG

音楽を思考する

Five Finger Death Punchのパンチ力

American Capitalist

Five Finger Death Punch「American Capitalist」★★★★☆


現代アメリカンHR/HMの権化

この世で最もクールなバンド名と言えば、私はAsian Kung-Fu GenerationとFive Finger Death Punchを迷わずプッシュする。
どちらも少し長い名前だが、単純な単語の羅列ではなく、しっかりとした意味があり、バンド名としても非常に機能的且つ印象的だ。
そして最も大切なことに、バンドの音楽性に違和感なくフィードバックしている点が挙げられるだろう。

事実、Asian Kung-Fu Generationのインディー臭漂うパワーポップオルタナティブ系ロックはアジア出身ならではの奇妙な存在感があり、Vocalの後藤正文氏の飄々としたキャラクターは機敏で軽快なカンフー的動作を朧げに想起させるものだ。
2010年発表の「Magic Disk」以降、バンドとしての佇まいに少し大人の落ち着き加減が見られるが、随所で散見されるエモ表現は未だ健在である。
特に同アルバム収録の「架空生物のブルース」はバンドの成長を裏付ける名曲中の名曲と言っていいほどのクオリティであり、こうした楽曲が書けるということは、恐らくこの先10年は安泰だろうと思う。

話が逸れてしまったが、今宵紹介するバンドはAsian Kung-Fu Generationではなく、USはカリフォルニア出身のFive Finger Death Punchである。
バンド名からも想像出来るように、基本は硬質なギターリフを大黒柱としたヘヴィネスでモダンなHR/HMと形容することが出来るだろう。
この手のサウンドは現代アメリカ人が最も得意とするスタイルであり、例えばDisturbedKillswitch EngageLamb of GodAvenged Sevenfold、As I Lay Dying、Stone Sour、All That Remains、そしてRedなど、細かいジャンルの違いこそあれ、枚挙に暇がない。
言い換えれば、2000年代以降に脚光を浴びたニューメタルやメタルコアといったモダン系HR/HMは、アメリカ大陸を起源としたムーブメントであり、世界的な音楽市場の衰退とともにその生存競争は熾烈を極め、2013年の今、リスナーにとっては良い意味で高品質のバンドだけが生き残りつつある状況にある。
そういう意味で言えば、Disturbedの活動停止はただただ残念無念の一言に尽きるが、私にとっても思い入れのあるバンドなので、今回とはまた別の機会で語らせて頂きたいと思う。

さて、前置きが長くなってしまったが、Five Finger Death Punchである。
結成は2005年ということで、比較的歴史の浅いバンドだ。
2007年に1stアルバム「 The Way Of The Fist」をリリース、2009年には2nd「War Is The Answer」、そして2011年に今宵紹介する3rdアルバム「American Capitalist」がリリースされた。
すでに2013年の今年、最新作となる「The Wrong Side of Heaven and the Righteous Side of Hell」のvol.1がリリースされており、順調にいけばそろそろvol.2の方も店頭に並ぶ時期だろう。
事実上、2枚組という大作となった4thだが、まずはこのバンドを知る上で看過することの出来ない傑作、「American Capitalist」をお勧めしたい。

「アメリカの資本主義者」と銘打たれたこの作品は、1stや2ndで散見された若さあふれる荒削りなハードコア感が後退し、その代わりにオーセンティックなヘヴィメタル本来の様式美が著しく台頭した内容となっており、それは高品質なサウンドプロダクション含め、間違いなくFive Finger Death Punchを代表する逸品となっている。
恐らく2ndアルバムに収録されている「Hard to See」の感触に手応えを得て、そこからバンドとしての長所を伸ばしていった格好だが、ここまで明快な進化を遂げることになるとは私にとっても予想外の出来事だった。
例えばそれは8曲目の「Remember Everything」という楽曲の存在が象徴的だが、ここまで露骨な正統派パワーバラードを彼らが奏でるとは夢にも思わなかったことである。
印象的なサビはもちろんのこと、間奏のギターソロも素晴らしく、Red、いやDaughtryの名バラード楽曲群すら軽く凌駕するかのような、シネマティックな質感が特徴的だ。

元々、その哀愁的なメロディセンスについてはズバ抜けた才能を持っていただけに、デビューから数年の時が経ち、バンドの成長とともにアレンジ能力も向上し、加えて粒立ち感の良いサウンドプロダクションと相まって、全ての要素がポジティブに反応した結果としてこの3rdアルバムの存在感は一際目立つものとなっている。
先ほどのパワーバラードはもちろん、PVにもなった「Under and Over It」や「Coming Down」、「Generation Dead」など、秀作揃いの楽曲にはこの手のサウンドが好きな方にとっても、その品質に思わず舌を巻くことだろう。
一見強引でパンチ力のあるグルーヴ感だが、サビでは切ない泣きメロを配置し、全体の情緒の安定をはかるという計算された構成は、もはや若手バンドとは思えない。

ただ、私が少々もったいないと感じたのは、コード進行に似た楽曲がいくつか見られたこと。
これにより、若干ではあるがメロディラインが均一化傾向となってしまったことは彼らにとっても今後の課題だろうと思う。
確かにバラエティ豊かなギターリフの好アレンジのおかげでそういった問題も矮小化されているようにも見えるが、何度も聴いていくうちにそうした欠点が露になってしまうことも否めない。

そこで今年発表の4thアルバムの出来が非常に気になるところだが、もし本記事で彼らに興味を持った方がいるならば、ぜひ自身の耳でチェックしてみて欲しいと思う。
私の予想では、恐らく本作「American Capitalist」よりもさらにバラエティ豊かな内容になっているはずだ。
むしろそうでなければ即座に退屈の烙印を押されてしまうような、時代感覚にセンシティブなジャンルでもある。

私が思うに、彼らFive Finger Death Punchにとって進化という意味は極めてリベラルな意味であり、それこそ突然エレクトリックな要素が加えられたとしても、特に大きな驚きはない。
数年前、Kornダブステップというジャンルを自身のフィールドに取り入れたように、Five Finger Death Punchは弱肉強食の資本主義社会の中で、まるで野生動物の如く獰猛な視点で進化の糸口を探っているようにも見える。
この「American Capitalist」はそうしたバンドの息遣いが耳元まで聴こえてくるような、ある意味で大衆にも分かりやすいヘヴィメタル入門書としても最適なアルバムと言えるだろう。

Disturbed亡き今、彼らの動向はアメリカのみならず世界のモダン系HR/HMシーンの注目の的と言っても過言ではない。
今回は代表作として3rdアルバムを紹介したが、この鋭い切れ味が最新作でも健在であることを祈るばかりだ。





American Capitalist
Five Finger Death Punch
American Capitalist
曲名リスト
1. American Capitalist 3:28
2. Under and Over It 3:38
3. The Pride 3:23
4. Coming Down 4:01
5. Menace 3:31
6. Generation Dead 3:43
7. Back for More 3:22
8. Remember Everything 4:38
9. Wicked Ways 3:07
10. If I Fall 3:56
11. 100 Ways to Hate 3:21

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