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NEODEAD MUSIC BLOG

音楽を思考する

Scar Symmetry、爆誕

CD Review

シンギュラリティ-フェーズI:ネオヒューマニティ

Scar Symmetry「The Singularity (Phase I - Neohumanity)」★★★★★


2014年下半期ベストアルバム

結成10年目を迎えたScar Symmetryが今秋、見事なコンセプトアルバムを発表した。
昨年にソングライティングの中心人物だったヨナス(G)が脱退したにも関わらず、ここまで高品質な作品を仕上げてくるとはサプライズ以外の何者でもない。
もちろん、メロディックデスメタル(以下、メロデス)界隈では実力派として知られるバンドだけに、巷での新作への期待値は決して低くなかったと思う。
しかし、中心人物の脱退というネガティブな案件がまるで嘘のように、私を含めた多くのファンの期待値を軽々と飛び越えてきたところに、気の早い話だが、私としては2014年下半期ベストアルバムにふさわしい作品であると、今はただただ強く確信している次第だ。


参考:Scar Symmetry - Cryonic Harvest

(コンセプトアルバムに相応しいシネマティックなアレンジが光る1曲。Scar Symmetryの新境地だ。)


元々はメロデスに恵まれた環境(北欧)で成長してきたScar Symmetry。
同郷であるスウェーデンにはArch EnemyIn FlamesDark Tranquillity、Amaranthe、Amon Amarth、The Hauntedなど、メロデスシーンを代表するバンドが所狭しとひしめく激戦地帯である。
特に2011年にデビューしたAmarantheの快進撃は今更ここで言うまでもなく、当時の私は「産業ロックならぬ産業メタル」という言葉を用いてまで、その音楽性の素晴らしさを周りに説いた記憶があるほどだ。


参考:Amaranthe - Hunger

(ポップとメタルの境界線上を漂うアレンジが秀逸なAmarantheのデビュー曲。)


このメロデスの歴史は古く、巷では1993年に発表されたCarcassの4作目「Heartwork」が発火点と言われている。
これはちょうどシアトル発のグランジブームにHR/HMシーンが浸食されていた時期でもあり、メタル暗黒時代とも呼ばれていたことは記憶にも新しい。
そもそもがデスメタルにメロディアスな要素を組み込んだジャンルがメロデスと呼ばれるものであったが(もしくはメロディアスなメタルにデスヴォイスを取り入れたもの)、特に北欧系(スウェーデンフィンランドなど)のバンドは重厚で暴虐なサウンドを前面に押し出し、新旧のメタルファンを巻き込む形でシーンは瞬く間に活性化していった経緯がある。


参考:In Flames - Embody The Invisible

(Iron Maiden直系の正統派HMにデスメタルの暴虐性及び疾走感が加味された名曲。)


しかし、時の流れは残酷である。
主観で申し上げるが、特に2010年代以降、メロデスシーンは全盛期の勢いを保持することが難しくなってきたように思う。
ここではあえて名前を出さないが、人気、実力ともにベテランと呼ばれるバンドでさえ、自らのマンネリに打ち勝つことが困難になってきた。
これは2000年代以降、アメリカで勃発したメタルコアスクリーモといったハードコアの亜種がシーンの中心となってきたことも遠因として考えられるだろう。


参考:All That Remains - This Calling

(All That Remainsは映画「SAW3」のEDテーマ曲を担当するなど、北米メタルコアシーンを語る上で欠かせない存在。)


これはどのシーンにも言えることかもしれないが、北米がヨーロッパのバンドにとって未だに魅力的な音楽市場であることに、恐らく疑念の余地はない。
また、バンド形態を続ける以上、EDM系アーティストのようにPC1台で曲作りからマスタリングまで、とは簡単にいかない世界であることもご存知の通り。
例えば数週間から数か月間はスタジオに篭り、メンバー同士で意見を出し合い、プロデューサーとがっぷり四つで組み合いながら時間をかけて制作していくのがバンドスタイルである。
そこには潤沢な資金が必要であり、バンドはライブをするか、CDを売るか、はたまたグッズを売るなどの涙ぐましい営業努力で採算を取っていく。
所属するレーベルはそのバンドが投資対象として魅力があるならば、資金を速やかに提供し、後に回収していく寸法である。


参考:「DLだと制作費全部赤字。CD買ってほしい」 スガシカオが明かすミュージシャンの厳しい現状J-CASTニュース


話が逸れたが、HR/HMシーンにおいて1990年代が暗黒の時代なら、2000年代以降は混沌の時代である。
先に挙げたメタルコアスクリーモは元々あったハードコアパンクというストリートカルチャーに根ざしたハイブリッド型の音楽であり、およそ新種という扱いではない。
むしろオルタナティブやミクスチャーに特化したニューメタルと呼ばれるジャンルの登場がシーンの混乱に拍車をかけてしまったと言っていい。
加えて、そこにラウドロックと呼ばれる日本独特のマーケティング事情も加わり、無益なジャンル論争が過熱してしまった時期もあった。


参考:Korn - Blind

(混沌をそのまま絵に描いたようなオルタナ系メタルで観客の度肝を抜いたKorn。)


ファッション同様、音楽シーン自体が流行と衰退の繰り返しであり、厳密に言えばそれが流行期であろうと、衰退期であろうと、傑作や名盤は存在し得る。
だが、1度でも停滞期に入ってしまうとファンよりも先にバンドが慌て始めるのは世の常だろう。
これはその昔、WhitesnakeJudas Priestがイギリスからアメリカに進出した際、自らの音楽性を大きく変えていったように、ヨーロッパ発祥のメロデス系バンド群も次第にアメリカナイズされ、そして消費されることによって、シーンそのものが衰退期に突入してしまったことは否めない。


参考:Judas Priest - Turbo Lover

(本国イギリスでは惨敗したがアメリカではTop20にランクインしたJudas Priestの問題作。)


衰退期、停滞期、低迷期、、、捉え方は人それぞれだが、そういった閉塞感のピークを迎えつつあった時期が2010年代付近とすると、AmarantheやMygrainといった若手バンドの登場は非常に鮮烈であり、メロデスシーンにおいても救世主的な役割を果たしたとも言えよう。
特にAmarantheは男女混成のトリプルボーカルを擁し、全体の曲調をポップに仕上げつつも、メタルバンドとしての風格はしっかりと保持するという難しい操舵を実現していた。
これがMygrainの場合、AメロやBメロではデスヴォイスが暴虐にも疾走するが、一転サビではクリーンヴォイスによる分かりやすい美旋律コーラスが炸裂するというメタルコア風アレンジを主体とした楽曲で勝負をかけてきた。


参考:MyGrain - Trapped In An Hourglass

デスメタル調の硬質なリズムと北欧ならではの叙情性豊かな旋律を両立させたMyGrain。)


この両者に共通しているのは「メロデスのさらなるメロディアス化」及び「クリーンヴォイスの台頭」である。
これまでのメロデスの特徴としては、あくまでもボーカルはデス声(グロウルとも呼ばれる歌唱法)に徹し、メロディはギターやシンセなど楽器隊が担うケースがほとんどだった。
AmarantheやMygrainがボーカル(歌)にシフトしていったこの変化、いや進化を安易に商業化と切って捨てるには時期尚早である。
あるいは軟弱と批判するのも少し待って欲しい。

私が思うに、この傾向は北米におけるメタルコア及びニューメタル系バンドの成功がもたらした功罪と言えるのではないかと。
つまり、Killswitch EngageDisturbedAvenged Sevenfold、In This Momentなどに散見される「サビではクリーンヴォイスの美旋律コーラス」という楽曲構成が広く一般大衆に受け入れられ、しかもそれがセールスポイントの1つになってきたという事実。
こうした歌を重視したアレンジ、作曲手法が次第にヨーロッパにも波及し、停滞期にあったメロデスシーンのカンフル剤となったのではないかという推察だ。


参考:Killswitch Engage - Rose Of Sharyn

(アメリカならではの大陸的な爽快感を内包した痛快無比な1曲。)


とはいえ、HR/HMとの付き合いが軽く20年を越える私にとって、AmarantheやMygrainにはどこか掴みどころのない物足りなさを感じていたのも確かである。
決定的な何かが足りていないのだ。
そう思っていたところに、今回のScar Symmetryの登場である。


サイバーパンクヘヴィメタルの融合

ようやく本題に入るが、彼らの新作「The Singularity (Phase I - Neohumanity)」は、冒頭で述べたようにコンセプトアルバムである。
しかも本作は3部作のうち1作目に過ぎず、メンバーによれば今後1年に1作のペースで制作、発表していく予定らしい。
各楽曲の内容については後述するが、一言で言えば近未来を舞台にしたサイバーパンクなSF的物語をベースにしている。
(日本盤ライナーノーツによれば「人工知能が生み出す光と陰」が全体のテーマらしい。)

そこはコンセプトアルバムらしく、歌詞の世界観も機知に富んで素晴らしく、およそSF映画好きを刺激する内容であることは最初に明記しておきたい。
また、光と陰というシンメトリーな対称をデスヴォイスとクリーンヴォイスのツインボーカルで表現しているところもなかなかの好判断と言えるだろう。

しかし何と言っても最大の魅力は各楽曲のクオリティの高さ、これに尽きる。
収録曲数は8曲と少なめだが(うち2曲は短いインストのため実質6曲)、全曲捨て曲なしの構成であることは間違いない。
余談だが、メロデス系作品の中では特に私のお気に入りでもあるMors Principium Estの「Liberation = Termination」を軽く上回る出来ではないかと舌を巻いたほどだ。


参考:「モルス、吠えないのか?」※当ブログ過去記事


さて、先ほど私はAmarantheやMygrainには決定的な何かが足りないと言及した。
ここで勘の良い人ならすぐにお分かりだろう。
それは「様式美」である。

メロデスという成り立ちを考えた時、そして北欧という土地柄を考えた時、この「様式美」は切っても切り離せない絶対的必要事項だ。
まずはヘヴィメタルという古典があり、そこからサブジャンルが派生していったことを念頭に置けば、自ずとこの様式美の重要性に誰もがぶち当たる。
ある者はそれをアメリカナイズすることによって効果を薄め、またある者はコンセプトを貫く上での必須要素としてさらに磨きをかける。
もちろん、今作におけるScar Symmetryは後者であろう。
楽曲は過去のどの作品よりも哀愁系のメロディで満たされ、またフックの効いたアレンジもシネマティックに展開し、近未来SFというコンセプチュアルなイメージに様式美が華を添えている。
ギターのリフやバッキングも基本に忠実であり、正直、メタルアルバムとして見ても非の打ち所がない作品である。

これは古くからHR/HMに接してきた人ほど深い感動を得るのではないだろうか。
随所においてNWOBHMや往年のジャーマンメタルをリスペクトしたような展開に、私などはいわゆる胸熱の状態が最後まで続いたからだ。
過去にIron MaidenやHammerfall、Vicious Rumorsといった正統派HMはもちろん、HelloweenAngraBlind Guardian、Iced Earthなどを好んで聴いていた方にもぜひお勧めしたい作品である。
また、SlipknotやFive Finger Death Punch、Heaven Shall Burnなどモダンアグレッシブな最近のメタルを好む血気盛んな若い方にもこの世界観は1度味わって頂きたいと思う。


参考:Scar Symmetry - Limits To Infinit

メロデス本来の疾走感に北欧系美旋律が見事に調和したScar Symmetry流の様式美が味わえる1曲。)


聴きどころはもちろん全曲だが、特に2曲目「Neohuman」、5曲目「The Spiral Timeshift」、7曲目「Neuromancers」のパフォーマンスは圧巻であり、歌、ギターソロともにヘヴィメタル特有のカタルシスを存分に味わうことが出来る。
中でも特筆すべきは「Neuromancers」であり、サビの後、ギターソロへとビルドアップしていく展開(2分47秒以降)はここ数年のメタル系楽曲においても頂点に君臨するほどの完成度と言えるのではないだろうか。
もしこの曲を聴いて何も感じないというHR/HMファンがいるなら、、、それはもはやメタル好きとは言えないのではないか?
そう思わせるほどの説得力に満ちた楽曲である。

また、終曲「Technocalyptic Cybergeddon」は10分を超える大作となっており、Dream TheaterやSeventh Wonderには及ばないものの、要所要所でプログレッシブな展開を挿入し、楽器経験者のリスナーを飽きさせない工夫が施されているのも流石だ。
繰り返すが、本作はコンセプトアルバムのため、出来れば日本盤、いわゆる歌詞の対訳が付いた国内盤CDの購入を推奨したい。


シンギュラリティ-フェーズI:ネオヒューマニティ
スカー・シンメトリー
シンギュラリティ-フェーズI:ネオヒューマニティ
曲名リスト
1. シェイプ・オヴ・シングス・トゥ・カム
2. ネオヒューマン
3. リミッツ・トゥ・インフィニティ
4. クライオニック・ハーヴェスト
5. スパイラル・タイムシフト
6. チルドレン・オヴ・ジ・インテグレイテッド・サーキット
7. ニューロマンサー
8. テクノカリプティック・サイバーゲドン

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誤解を恐れずに言えば、本作はメロデスシーンに新風を吹き込んだことはもちろん、サイバーパンクヘヴィメタルの融合が味わえる会心の一作でもある。
Amarantheなどの登場により、メロデス界におけるクリーンヴォイスの台頭はこちらもある程度予測出来ていたものの、ヨーロッパらしいシンフォニック的な様式美とSF的世界観の調和は結成10年目を迎えたベテランのScar Symmetryだからこそ成し得た境地と言えよう。

もはやデスメタルでも何でもないじゃないか、という批判の声もあるだろう。
だが新たな潮流としてオーセンティックとアバンギャルドという相対する要素を融合させたこの流れを無視することはナンセンスだ。
恐らくメロデスを毛嫌いしていた方にも十分説得力のある内容に仕上がっているので、新規ファンの獲得も当然に考えられる。
果たして問題はこの高い品質が2作目、3作目まで保たれるかどうかであり、今後のScar Symmetryからは当分目が離せないことになる。

俄然、面白くなってきた。

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